プリテンダー
広報部は少し不服そうではあったけど、角度がどうとか光の加減がどうとか、なんだかんだ言いながら写真を撮った。

広報部内の会議でまるごとボツにされる予感。

「改善策も考えてみますよ。」

「お願いします。」

渡部さんはカメラを持ったこの若い男の後ろで何やらメモを取っている。

「それじゃ、次の試作ができ次第連絡お願いします。なる早で!」

「はぁ…わかりました。」

なる早で!って…。

なるべく早くお願いします、とは言えんもんかね?

試作室を出る直前、渡部さんは僕の白衣のポケットに何かをねじ込んだ。

ああ…見たくないよ…。

返事を急かされるのかな?

できれば、この間の話はなかった事に…って言ってくれたらいいんだけど。

僕は矢野さんがパソコンに向かっている隙に、コソッとポケットから渡部さんのねじ込んだメモを取り出した。


“5:30に第2会議室で待ってます”


やっぱりそう来たか…。

返事急かされるパターンだ、これ。

広報部に出す改善策も考えなきゃいけないのに定時で仕事終われるかな?

僕は渡部さんへの断りの文句を考えながら片付けを始めた。




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