プリテンダー
午後5時半。

定時のチャイムが鳴った。

一応、定時で仕事は終わった。

鞄を持って席を立ち、できるだけ自然に部署を出た。

それにしても…第2会議室を指定して来るあたり、渡部さんは本気で僕と決着をつけたいらしい。

第2会議室は少し不便な場所にあるので、あまり使われていないようだ。

それにこの時間は会議なんてしていない。

この間みたいに邪魔が入るのを避けたいんだろう。

それって考えようによっては、僕と成り行きで何があってもいいって事にも思える。

渡部さんって純情そうな見掛けによらず、やっぱり怖い。


第2会議室のドアを静かに開けると、中では渡部さんが落ち着かない様子で待っていた。

めちゃくちゃドキドキしてたりするのかな?

そんな渡部さんへの断りの文句を、僕は心の中で何度も復唱する。

「鴫野くん!良かった、来てくれて。」

「お待たせ…。」

ああもう…そんな嬉しそうに笑わないで。

罪悪感で胃の辺りがキリキリ痛む。

渡部さんは近くにあった椅子を僕にすすめて、自分もすぐそばの椅子に座った。

ガッツリ話し合う体勢を整えられてしまった。

僕は仕方なく椅子に座る。

渡部さんはうつむいて膝の上で手を組み合わせて、しきりに親指の爪を擦っている。

落ち着かないんだな。

落ち着かない様子で告白の返事を待つ姿が、女子高生みたいでなんとなくかわいい。


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