プリテンダー
「あのね…この間の事なんだけど…。」

「ああ、うん…。ごめん、あんな事して。ちょっとどうかしてた。」

先制パンチとまではいかないが、渡部さんの事はなんとも思っていない事を、やんわりと伝えてみる。

「あの…私は、嬉しかったよ。」

え、嬉しかった?!

自分の事をどう思ってるかわからない男に、キスされて胸さわられて嬉しいって?

ちょっとどうかしてる。

「それで…そろそろ、返事…聞かせて欲しいんだけど…。」

渡部さんは相変わらずうつむいて、親指の爪を擦っている。

緊張した時の癖みたいなものかな?

僕は思いきって、何度も心の中で復唱した言葉を声にして吐き出す。

「うん…。ごめん、今はまだ誰とも付き合う気ない。」

「私じゃダメ…?」

渡部さんは顔を上げて、また潤んだ瞳で僕を見た。

あ…やっぱりこの顔、ちょっとかわいい。

「ダメって言うか…。元カノの友達と付き合うのは、やっぱりちょっと気が引けるし。」

復唱した言葉、第2弾。

これで素直にあきらめてくれないかな?


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