プリテンダー
「私、鴫野くんがイヤなら、美玖とは縁切るよ。」

ええっ?

男のために友達と縁を切るなんて、あっさり言っちゃうんだ。

女の友情って、そこまで脆いものなんですか?

「そこまでしろとは言わないよ。ただね、未練があるわけじゃないけど、まだ僕の気持ちの整理がつかなくて。」

思い出の整理はしたけどな。

それでも僕は、美玖との思い出の写真を処分した時、確かに胸が痛んだ。

今でもまだ、ふとした拍子に美玖の事を思い出す。

そのたびに、僕は美玖を好きだったんだって、改めて思い知らされるんだ。

美玖と別れてから、まだ日も浅い。

渡部さん、これくらいで勘弁してくれないだろうか。

「もう少し時間が経てば、私との事、考えてくれる?」

「うん…どうかな。今はまだなんとも言えない。」

曖昧に濁すのは良くないとわかっているけど、僕の事をこんなに想ってくれてるんだと思うと無下に断れない。

「私、ホントに鴫野くんが好きなの。どんな形でもいいから、鴫野くんのそばにいたい。」

えーっと…それ、まずくない?

少なくとも僕には、セフレでもいいからそばにいさせてって聞こえたんだけど。

「あのさ…そういう事、簡単に言わない方がいい。もうちょっと自分を大事にしなよ。」

僕がそう言うと、渡部さんはポロポロ涙をこぼした。

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