プリテンダー
「だって…好きなんだもん…。あきらめられない…。」

渡部さんはあとからあとからこぼれ落ちる涙を両手の指先で拭った。

ヤッバイ…。

すげえかわいいかも。

「そんなに泣かないで。」

僕は心にもないことを言いながら、指先で渡部さんの涙を拭った。

「そんなに優しくされたら…もっとあきらめられなくなっちゃうよ…。」

渡部さんは小さくしゃくりあげながら僕の手を握った。

僕の手の甲が、渡部さんの指についた涙で濡れた。

体の芯がゾクリと疼く。


もっと泣かせたい。

僕を想って泣く姿を、もっと見たい。


僕はそっと渡部さんを抱き寄せた。

「嫌いとか、そういうわけじゃないんだ。ただ気持ちが落ち着くまでもう少し時間が欲しいだけ。わかってくれる?」

よくもまあ、思ってもいない言葉がスラスラと口をついて出てくるもんだ。

付き合いたいなんて、これっぽっちも思ってないくせに。

「それまで私、どうしたらいいの?鴫野くんの気持ちの整理がついた時に、やっぱり私の事は好きじゃないって言われたら…。」

渡部さんは僕の胸にしがみついて、大粒の涙をこぼしている。


いいぞ、もっと泣け。


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