痛くて愛しくて、抱きしめたい
「もうひとつ質問!」
真後ろの席から声が響き、わたしはハッと我に返った。
「先生はみんなから、なんて呼ばれてるんですかー?」
「俺のあだ名?」
知りたーい。と、教室中から声が上がる。
どうやらわたしが回想している間も、彼への質問タイムは続いていたようだ。
「まあ、下の名前がヒロマサだから、」
渋々口を開いた彼に、わたしの心臓がドクッと音をたてた。
「それを音読みして、」
ドクッ、ドクッ。嫌な音が速くなる。
「タイ‥‥‥」
「あーーーーーっ」
突然のわたしの大声に、タイショーが驚いて言葉を中断した。
シーン、と水を打ったような沈黙。集中するクラスメイトの視線。
「‥‥めんぼあかいなアイウエオ」
どっ、と気の抜けた笑いが起きた。
「やだ葉月~、何言ってんの」
「ビックリすんじゃん。寝ぼけたの~?」
みんなにクスクス笑われて、わたしは真っ赤に赤面する。
教室でいきなり叫ぶだなんて、完全に変なヤツだ。タイショーも絶対、引いたはず。
‥‥‥でも、嫌だったんだ。
ほかの子たちに「タイショー」って呼び方を知られるのが。
その響きだけは、一人じめしたかったんだ‥‥‥。