痛くて愛しくて、抱きしめたい
おばちゃん教師にスマホを没収されながら、ちらりと彼の方を見る。
彼は無表情で黒板に目を移すと、そのまま授業を再開した。
視線すら、一度も合わない。
わたしに気づいていないのか、気づいてて無視してるのか。
‥‥‥タイショーのばかやろう。
内心で、あの頃のようにあだ名で呼んで悪態をつくと、胸の底から記憶が這い上がってきた。
* * *
タイショーこと瀬戸大将は、昔、わたしの姉の恋人だった。
それはわたしが中学1年、タイショーと姉が高校2年だった頃だ。
まっさきに思い出すのは、原付バイクの排気音。
毎週日曜の午前10時になると、タイショーは緑色の原付にまたがって、姉に会いに家までやって来た。
「よっ」
原付からヒョイと降りて、窓のむこうから声をかけてくる彼。
わたしの部屋は庭に面していたので、いつも最初にあいさつするのは、姉じゃなくわたしだった。
「勉強がんばってるかー? ハヅキング」
「その変な呼び方、やめてよ」