痛くて愛しくて、抱きしめたい
逃げだした激情
翌日の目覚めは、最悪だった。
ほとんど眠れなかったせいで、目の下にはクマ、脳みそにはグレーの膜が張っているみたい。
「朝ごはんくらい食べなさいよ。昨日の夜も抜いたんだから」
「んー。いい」
「倒れても知らないわよ」
「んー。いいよ」
「バカ」
心配するお母さんの小言も、ほとんど耳に入ってこない。ラジオのノイズ程度に聞き流し、食べ物はとらずにコーヒーだけ飲んで、家を出た。
電車の中で、タイショーに会った。
「おはよう」
悔しいくらい涼しい顔で、彼があいさつしてくる。
「‥‥‥おはよう、ございます」
今まで一度も電車で会わなかったのに、なんでこんな朝に限って遭遇してしまうんだろう。
視線をそらしたわたしに、タイショーが不思議そうな目をするのが、視界のはしでわかった。
「瀬戸せんせー! おはようございます」
「おはよう」
同じ車両に乗っていた生徒に声をかけられ、タイショーはすぐさま先生の顔になる。
その様子が無性に歯がゆくて、わたしは彼に背を向けた。
少し汚れた窓ガラスに映る、わたしの顔。すっごくブサイクだ。
自分の思い通りにならなくて拗ねたガキみたいな顔‥‥‥。