痛くて愛しくて、抱きしめたい
「お前こそ、俺のことタイショーって呼ぶだろ」
「みんなそう呼ぶじゃん」
「さんを付けろ、さんを。もしくはお兄様って呼びなさい」
少し意地悪っぽい、小さな八重歯ののぞく笑顔。
ワタアメみたいにふわふわの、明るく染めた髪。
骨太の大きな手。
高い背丈。
‥‥わたしの同級生とは、まるで別の生き物。
「お。中学の問題集じゃん。なつかしー」
そう言って窓から彼が手を伸ばしてくるので、問題集を渡した。
「中一英語とかマジでなつかしいし。てかお前、ほとんど間違ってんじゃん」
「え、うそ!」
「ほんと。いいか、これはアホでも解けるコツがあってだなー」
窓越しの会話はだいたい他愛もないもので、けれど時々、こうして勉強を教えてくれることもあった。
口の悪さをのぞけば、彼は教えるのが上手だったのだ。
そのせいか、
「俺、将来は先生になろっかなー」
冗談っぽくそう言うこともあったけど、全っ然向いてない、とわたしは思った。