痛くて愛しくて、抱きしめたい
サヨナラの哀情
平井先生の去った保健室は、沼の底のように静かになった。
ベッドに横たわり、天井の模様をながめるわたしの脳裏に、彼女の言葉がしつこくリピートしていた。
放課後、校内に人が少なくなったのを見計らって、保健室を出た。
カバンはすでに友達が届けてくれていたけど、ジャージはまだ教室に置いたままだ。
わたしは教室へ向かった。寒い廊下を歩いていると、前から背の高い人影が歩いてきた。
「あ、もう大丈夫なのか?」
わたしに気づき、尋ねてくるタイショー。
そのやさしさが逆に、さっきの先生の言葉をよみがえらせて、わたしは何も答えられなくなった。
「どうした?」
まだ体調が悪いと思ったんだろう。彼は心配そうに、わたしの顔をのぞきこんでくる。
心が簡単にかき乱されて、わたしは目をそらした。
「‥‥大丈夫だから」
「でも、まだ顔青いぞ?」
「平気だから‥‥‥もう、わたしに話しかけないで」
語気を強めて言うと、タイショーの顔から表情が消えた。
わたしは大きく息を吸って、ハッと短く吐きながら、作り笑いで上を向いた。