痛くて愛しくて、抱きしめたい
「タイショーさぁ」
精いっぱいの、サバサバした声を作る。
「わたしが体調悪いと、あの事故のせいじゃないかって思うんでしょ?
言っとくけど、そんなの全然ないし、いちいち昔のこと思い出されるのも嫌なんだよね」
事故、という言葉を口にすると、胃がギュッと縮こまった。
一番言いたくないことを、一番言いたくない人の前で、言っている。
「てか、皮肉だよねー。4年もたって、こんなとこで再会するなんて。
ま、あと一週間ちょいの辛抱だし、適当にわたしのことはスル―しといてくれる?」
わたしは一気に言いきると、息を止めて彼の反応を待った。
「‥‥‥わかったよ」
抑揚のない、低い声でつぶやいて、タイショーが廊下を歩き始めた。
規則的な足音が、背後で遠ざかっていく。
わたしは胸が痛くて、血が出てるんじゃないかと思うほど痛くて、両手で胸元をおさえた。
もちろんそこには血なんて出ていない。
だけどきっと、わたしの心臓は、メッタメタのギッタギタだ。
「ふふ」
自嘲的な笑いがもれる。
でも、これでいいんだ。
お互いが苦しまないためには、こうすることが、きっと‥‥‥。