痛くて愛しくて、抱きしめたい
翌日からわたしたちは、完全にただの先生と生徒になった。
もともと教育実習生とは接する時間が少ないし、一部のミーハーな女子をのぞけば、ほとんど話す機会もない。
だから、彼と目が合わないことも、会話がないことも、まったく不自然じゃなく時間は過ぎていった。
平井先生は、あれからわたしに絡んでくることはなかった。
たぶん、わたしが忠告を聞きいれたことがわかって、満足したんだろう。
そうして、あっという間に教育実習の最後の日がやって来た。
その日の朝、教室に入ると、クラスメイトたちがひとつの机に集まっていた。
「あ、葉月。やっと来た」
友達がこちらに気づいて手招きする。
輪のように集まっているその中に、わたしは「どうしたの?」と言いながら混ざった。
「今ね、みんなで書いてたんだ。瀬戸先生への寄せ書き」
薄いブルーの色紙をかざして、友達が言う。
「え‥‥‥もしかして、わたしも書くの?」
「当たり前じゃん。全員だし」
有無を言わさずマジックペンを渡され、わたしはその色紙に目を落とした。