痛くて愛しくて、抱きしめたい
「お姉ちゃん。葉月だけど」
「めずらしいね。どうしたの?」
「ちょっと話したいことがあって。あ、吉川さんは?」
「まだ帰ってないから平気。ていうか、わたしも吉川なんだけどね」
姉の明るい声に、なつかしさを感じる。思えばあの日以来、まともに話すタイミングすら見失っていたから。
「お姉ちゃん、あのね」
「うん?」
「タイショーが、わたしの学校に来たの」
え? と少し素っ頓狂な声で、姉が聞き返した。
「タイショーって‥‥‥あのタイショー?」
「うん、そう」
あのタイショーじゃなきゃ、どのタイショーだ。と思ったけど、姉にとってはそのくらい、遠い過去のことなのかもしれない。
「2週間前にね、教育実習で来たんだ。最初に見たときは、息が止まるかと思った。
髪とか黒くて別人みたいだったよ。授業はわかりやすかった。タイショーって、やっぱり教えるのうまいよね。
でも、もう今日で終わっちゃったけど」
「そっか‥‥‥」
「お姉ちゃん」
「ん?」
「その、昔のことだけど‥‥‥」