痛くて愛しくて、抱きしめたい
『―――づき』
あぁ、また、わたしの名前を呼ぶ声がする。
少し低くなった、あなたの声が。
『はづき』
返事をしなくちゃ。目を覚まして、あなたの涙をふかなくちゃ。
そして、伝えなきゃいけない言葉がある。
「―――葉月っ!!」
巨大な風船が割れるように、パンッ、と意識が現実に戻った。
夜の駐車場の地べたに、わたしは尻もちをついていて、そして一台の車が、目と鼻の先に止まっていた。
「飛び出してこないでよ、危ないわね!」
運転手のおばさんが怒りながら、車を走らせ去っていく。
「大丈夫か!? ケガは!?」
タイショーがわたしに駆け寄り、わたしの肩をつかんだ。
「え‥‥‥?」
茫然としていたわたしは、彼に言われて初めて自分の体を確認する。
痛いところは、どこにもない。どうやら完全に事故をまぬがれたようだ。
じゃあ‥‥‥さっき見た光景は、一瞬の夢だったんだろうか。
「う、うん‥‥‥平気」
そう答えた瞬間、大きく見開いたタイショーの目が、ぶわっと赤くなった。そして、
「バカヤロウっ!!」
地面を割るような怒声とともに、わたしの体は、彼に強く抱きしめられた。