痛くて愛しくて、抱きしめたい
タカラモノ感情
「お母さーん。出かけるなら、ついでに乗せてってー」
冬本番、2月の日曜日。わたしはリビングのお母さんに声をかけた。
「いいけど、じゃあ早く着替えなさいよ」
「はーい」
厚手のコートをはおり、マフラーをぐるぐる巻く。
外に出ると、粉雪がちらついていた。
タイショーが学校を去ってから、4ヵ月がすぎた。
あんなに彼にキャーキャー言っていた女子たちも、今では教育実習のことなんてサッパリ忘れ、目前にせまったバレンタインの話題で盛り上がっている。
この4ヵ月の間、それなりにいろんなことがあった。
お姉ちゃんは元気な女の子を産み、お父さんはさっそく爺バカになった。
お母さんは羽生くんの世界最高得点に狂喜し、わたしは期末テストで学年最低点を叩き出して補習をくらった。
世間はクリスマスに舞い上がり、そのテンションのまま2016年を迎えた。
タイショーは、どうしているのか知らない。