痛くて愛しくて、抱きしめたい

もう、原付には乗らないの?
そう訊こうと思ったけど、やめた。


「俺ら会うのって何年ぶりだっけ? 5年くらい?」

「4年」


即答すると、「よく覚えてんな」とタイショーが苦笑した。


覚えてるよ。忘れるわけがない。

お姉ちゃんとタイショーが別れて4年。わたしたちの接点がなくなって4年。

わたしはもう、あの頃のあなたと同じ歳になったんだ。

あなたにとっては、知りたくもないことかもしれないけど‥‥‥。


「とにかく」

わずかな沈黙を合図にしたように、タイショーが切り出した。

「今日から2週間、よろしくな」


社交辞令の声。だからわたしも、社交辞令の声で「よろしく」としか返事できなかった。


踵を返し、校舎へ戻っていく彼。
中庭にぽつんと突っ立つわたし。

ふたりの間を、乾いた秋の空気がたよりなく漂っている。
スーツ姿のタイショーの背中が、少しずつ遠くなっていく。


もう一度、風が吹いてほしい。そう思った。

さっき、タイショーの手からプリントを奪ったような、イタズラで力強い風が――。


「タイショー!」


彼の背中が止まった。


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