そして俺は、君の笑顔に恋をする
(…っ、まだまだ!俺は諦めんぞ!)
工藤の挑戦は続く。
学校が終わり、校門から出てくる黒瀬を確認すると、工藤は朝と同じように彼女に近づいた。
「お疲れさん、今日もこれからバイトか?」
「……聞かなくても知ってるでしょ」
「ま、まあ、そうだけども…でもいいじゃんか、予定を聞いたって」
「しつこい」
ストーカーか。
「…ゔ」
黒瀬の冷たい切り返しに打たれながらも、今度は負けじとこらえる。
「…あー…気を悪くしたのならごめん、気をつける」
苦い顔でそう言う工藤を、黒瀬凪咲は横目でじろりと睨み付けた。
上から下までなめるように観察する。
「…今朝から何なの?今まで話しかけてこなかった」
「え?…あ、そろそろ俺への警戒心も薄れるかと…」
「……警戒心が薄れたら何?仲良くなろうって?…あんたも他の刑事たちとおんなじね、変態」
黒瀬のその言葉に工藤は目を丸くして固まった。
「…は?ちょ、ちょっと待て、それはどういう…」
「言葉通りの意味。じゃ、私は行くから」
「お、おい!黒瀬!」
まだ聞きたいことがある工藤は思わず彼女の腕をつかんだ。
その時、
ガッ!!
「うおっ」
黒瀬は掴まれていない方の手で工藤の手を掴み、ひねり上げると同時に大きな体を地面に突き飛ばした。
尻もちをついた形になった工藤を、黒瀬凪咲は高い位置から見下ろす。
「…あんたの前任の刑事たちもそうやって手を伸ばしてきた。あんたより馴れ馴れしく至るところを触って来たわ。そのたびにこうやって見下ろしてきたけど、もううんざりなのよね」
「あ…」
「だいたい警護自体頼んだ覚えない。雪村さんや佐久間おじさんのお節介を受けてただけ。でも下心の塊みたいな連中が警護だなんてふざけてる、あんた達なんかに頼らなくても自分で自分の身ぐらい守れるわ」
分かった?
「分かったならもう近寄らないで、話もかけない。あんたは今までの刑事より少しはましだから上司に怒られないように警護は勝手にしてくれて構わないけど、私の日常を崩さないで。単調でつまらないって思うでしょうけど、このリズムに意味があるの、いいわね?」
今までが嘘の様に饒舌にしゃべる黒瀬凪咲を、工藤は下から口をポカンと開けたまま呆然と眺める。
その一見滑稽に見える姿に満足したのか、黒瀬は冷めた目で一瞥して颯爽と帰っていた。