そして俺は、君の笑顔に恋をする
学校への通学路を二人で歩く。
もちろんある程度の距離を置いて。
始めこそ無言で歩いていたが、しばらくすると、なんと黒瀬凪咲の方から話しかけてきた。
「…アメリカって言ってたけど、ただの刑事じゃないの?」
「えっ?…あ、ああ。まあ、普通じゃないといえば普通じゃないな」
工藤は驚きながらも、自分がFBI帰りの元SPであることを話した。
それを聞いた黒瀬は
「…信じられない、経歴改ざんしてない?」
と、珍しく驚いているようだった。
「……警護対象者の情報のことだけど、雪村さんから資料をもらったんじゃないの」
「資料は貰ってない、雪村たちの意向でね。だから俺には、君がどうして警護対象になったのかも、何から守らなきゃならないかも分からない。家族構成すら知らないんだ」
「…ふーん、あんたも大変ね」
「!!これはこれは、まさか同情していただけるとは…光栄でございます」
「そう言うところはうざい、本気で」
思いがけず会話が成り立っているが、
言葉に酷くトゲがある気がするのはたぶん気のせいじゃない。
だが以前に比べると大きな進歩だろう。
「…事情は分かった。すぐには無理だけど私の事は話してあげる。このくらいの距離なら接近も許可」
「!!え、ほ本当に…!」
「ただし、条件は守って。私の生活リズムは崩さない。あと、過度の干渉も厳禁。少しでも不快感を感じたら今度こそ警護から外す。雪村さんたちが何と言おうと絶対ね」
「わ、分かった。了解」
それから
黒瀬凪咲は立ち止まり、工藤の方を振り返って念を押すように言う。
「約束して。もし、私が襲われたら、私の事は気にしないでいいから犯人逮捕を優先する」
「だが、俺の仕事は君の警護で…!!」
「それを頼んだのは雪村さんと佐久間さん。私は警護をお願いした覚えないっていったでしょ。貴方は刑事、経歴上はそこらの刑事より随分優秀な。今の段階じゃ私にとってはあなたにそれ以上の価値を見出せないわ。だから犯人を逮捕する刑事と暇な時の話し相手ぐらいには認めてあげるって言ってんのよ」
「っおい!」
「分かったらさっさと行って。私は学校に行く」
黒瀬凪咲は言いたいことだけ言って、後ろ手に手を振って歩き始める。
全く気付かなかったがもう高校前に到着していたようで、彼女はあっと言う間に校舎の中に消えていった。