そして俺は、君の笑顔に恋をする
靴を履き、校舎を出る。
校門を抜けると斜め後ろに工藤の姿を確認した。
この時間は人が多いので話しかけては来ない。
流石にここ一か月で慣れた。
黒瀬は、そのまままっすぐ自宅のマンションへ向かった。
今日は金曜でバイトがない。
だからこのまま帰宅。
マンションの前につくと、エントランスに入る前に黒瀬は振り返って工藤の姿を探した。
そして彼の姿を捕えるとツカツカと早足で工藤の目の前に向かって歩く。
「な、何だよ。どうかしたのか?」
黒瀬の今までにない行動に、案の定工藤は困惑の表情を浮かべている。
そんな彼に向かって黒瀬は言った。
「今日はこの後、夕飯を食べてお風呂に入って寝るだけ」
「...はあ。...だから?」
「...だから、今日はもう家を出ないから警護も終わり」
「!!」
「毎日二十時間近く警護してる。流石に休むべきよ」
思いも寄らず、黒瀬に優しい言葉をかけられ工藤はさらに困惑する。
「だ、だが、部屋に居るうちに何かあったら...!!」
「平気よ。今まで何もなかった、貴方が来る前も来てからも。だから大丈夫」
「でも、これは俺の仕事だ。手を抜くわけにはいかない」
「強情ね。それじゃあこう言うのは?明日は早くから出かけるの。貴方はそれに付き合う。長く歩くから体力を回復してもらわないと困る」
「体力は有り余って...」
「でも今日見ただけで何度も欠伸してた。眠いんでしょ」
「!それは...」
「図星?だったら今日は早く帰って報告書をさっさと作って早く寝て。明日は早いわよ」
それだけ早口で言うと、黒瀬は呆然とする工藤を残しそそくさとマンションの中に。
夕飯を済ませ、シャワーを浴びた黒瀬がカーテンの隙間からいつも工藤がいる場所をのぞくと、そこにはスーツを着たいかにも警官らしい姿の男が立っていた。
(あの人、別の警官に任せたんだ...律儀だな)
仕事をほっぽり出すでもなく、黒瀬の心配を無下にするでもなく、あくまで警護者であることを貫いた。
ただ寝不足であることは認めるところだったらしい。
(不器用な人...)
タオルで長い髪を拭きながら黒瀬は心の中でそう思った。