そして俺は、君の笑顔に恋をする
...
彼女は黙々と歩く。
工藤はその後ろを黙ってついていく。
その状態のまま二人はひたすら緑の中を進んでいった。
しばらくすると海が見え始める。
海だけではない。
そこには墓地があった。
村と同様に小さな墓地。
けれど手入れがしっかりされているおかげで、一般的なそれと比べ重々しさはない。
「…そこに居て」と黒瀬は工藤に釘を刺し、一人墓地の中に進んでんいく。
そして一つの『墓』の前で立ち止まる。
簡単に辺りの草を手で払い、買ったばかりの花を添える。
しゃがみ込み、そっと目を閉じて祈るように手を合わせた彼女は、数分間じっと同じように手を合わせ墓に向かう。
それからゆっくりと瞼を開け、墓の文字をなぞった。
工藤がいる場所からは誰の墓かは分からなかったが、彼女の横顔がやけに寂しげで、その時の彼女は年相応の弱い少女のように見えた。
戻ってきた彼女はひたすら無言。
いつも以上に口を閉ざし、話しかけてくるなと雰囲気が言っている。
だから工藤も何も言わずに一緒に歩いた。
ふと立ち止まったかと思えば、ボーっと海や山や田んぼを見る。
彼女は何を考えて、何を想っているのだろうか。
あの墓は誰のものだったのだろう。
そんな疑問を胸の内にかかえながらしばらく歩いていると、ふたたびあの花屋の前に帰ってきた。
店内の花を外に出して水やりをしていたハナが、二人に気付いて手を振る。
「おかえりー!二人とも早かったねー」
お茶していきなさい!と黒瀬の背中を押して店の裏に連れていく。
「裏では喫茶店をやってるのよー。ここらじゃ割と人気の店なんだから!コーヒーとお手製のマフィンが売りなの!工藤さんもどう?」
「いや、俺は結構です。これでも仕事中なんで…」
「そっか、ざんねーん。次は仕事じゃない時に来てね」
「はあ…」
終始明るいハナ。
工藤は戸惑うが、黒瀬は慣れた様に裏へ回りテラスに並べられたイスの一つに腰かけた。
その後も彼女はやはりボーッとして、ハナの持ってきたコーヒーにも手を付けずに景色を眺めてる。
そんな彼女を心配そうに見ていた工藤に傍を通りかかったハナがそっと耳打ちした。
「気にしないでね、あの子お墓参りのあとはいつもああなの。コーヒーを飲んで一息ついたら元に戻るから、そっとしといてあげて」
「あ、あの…!」
「ん?」
「…彼女とは、どういったご関係なんですか?」
思わず尋ねてしまったあとで、あ、と思ってしまったが、どうせだから聞いておきたい。
初めて出会った黒瀬を知っている人物なのだ。
「私?」
そうね、なんて言ったらいいのかしら
ハナはそう言うと、コーヒーに手を伸ばそうとしている黒瀬を見つめて、
「簡単に言ったら、私はあの子の…最後の家族、かな」
静かに、そう言った。