そして俺は、君の笑顔に恋をする
...
しばらく何も考えずにそうしていると、ガチャと扉が開く音がして、驚いた黒瀬はバッと振り返る。
振り返った先に居たのは、靴を脱ぎかけた状態で固まる工藤の姿だった。
「…あ、ごめん。起きてたのか」
「い、いや…さっき、起きた」
黒瀬がそう答えると、固まっていた工藤は表情を緩めてにっこり笑う。
靴を脱ぎ、静かに彼女の隣まで歩み寄ると、その場に腰を下ろした。
夜の静寂の中に、二人の声だけが響く。
「少しは眠れた?」
「うん…」
「怪我は?痛むか?」
「…ううん、もう何とも…真妃さんがちゃんと手当てしてくれた」
「……そっか、良かった。そう言えば真妃は?」
「部屋で眠ってる」
「うお、やっぱ寝ちまったか…ごめんな、あいつ医者でさ。ここのところずっと休みなしだったからたぶん疲れてたんだと思う」
ちょっと騒がしいだろ、あいつ。とおかしそうに整った顔を崩しながら工藤は笑う。
その横顔を見ながら、昨日からずっと聞きたかった事が口に出る。
「…工藤さん、ってお金持ちなの?」
「ん?…ああ、ここの事か。いや俺は金持ちじゃないよ。ただ、死んだ俺の親父が遺産として残してくれたもんの一つなんだ」
「…へえ」
「ここ以外にも似たような警備の固いマンションの部屋をいくつか持ってる。使ってない場所は必要としてる人に貸してて、今実質的に俺が管理してるのは二つだけ」
住み心地はどう?
と、尋ねる工藤に黒瀬はまあまあと頷く。
それから数分間、二人は会話も無く、静かな時間が流れた。
その静寂を断ち切るように、工藤は口火をきる。
「…一つ、君に謝らないといけないことがある」
「何?」
「君の家に、無断で入った。ごめん」
「…いいよ。そうすると思ってた」
彼女の落ち着いた声を確認し、工藤は言葉を続ける。
「…そこで、これを見つけた」
差し出したのは彼女のベッドの下で見つけた小さな箱。
その中身は、大量の小さな黒い機械─盗聴器だった。
おそらく使用済みの物だろう。
黒瀬の部屋に何者かが設置したものを外し、箱にしまっていた。
「知ってたんだよね、知ってて自分が狙われるように仕向けた」
盗聴器が仕掛けられてるのを確認しては外し、そのことをずっと黙っていたのも
行動に規則を持たせて生活リズムを一定にしながら過ごしていたのも
全てはわざと自分を狙わせるため。
「ご両親、そしてお兄さんを殺した犯人を捕まえたくてした事」
そうだよな?
その問いに、黒瀬は静かにうなずいた。