そして俺は、君の笑顔に恋をする
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全ての始まりは十三年前
黒瀬凪咲の両親がある『データ』を見つけたことに遡る。
「私の両親は、警視庁の捜査二課でサイバー犯罪を専門に扱う刑事だったんです」
当時二人はサイバー犯罪において警視庁でもトップクラスの実績を上げる腕利きの刑事だった。
多くのハッカーや巨大犯罪組織が彼らの手によって捕えられた。
そんな中、二人はある犯罪組織を追っていく過程である『データ』を見つけたのだ。
「何重にも高度な技術で暗号化されたその『データ』は『ブラックボックス』と名付けられ、二人が解読することになりました」
しかし、その『データ』は予想以上に厄介な代物だった。
おそらくは犯罪組織の根幹をなすものだったのだろう。
結局、内容が何だったのかは分かっていない。
何故なら解読するより前に、二人は事故に巻き込まれて死んだから。
その事故が故意の物だったのは誰の目にも明白で。
『ブラックボックス』はその後、忽然と姿を消した。
「私はまだ三歳で、事の重大さや両親の死の真相を何一つ知らなかった。でも兄は違った。その頃ちょうど十歳だった兄は両親の死に不信感を持ち、短大を出てすぐに自身も刑事になったんです。両親の死の原因を探るために」
短大で情報工学を学んだ兄の誠一郎は、若くして両親と同じく捜査二課でサイバー犯罪のエキスパートとなった。
そして密かに調べていた両親の死の原因が『ブラックボックス』だという事を知り、その犯罪組織を徹底して調査するようになった。
当時よりインターネットが普及し、よりコンピューター技術が発達したことで捜査は難航したが、誠一郎の一心不乱の徹底した調査により、再び彼は『ブラックボックス』を手にすることに成功したのである。
それがちょうど一年半前。
「それから半年後、兄は交通事故で死にました。両親と同じように。最初、私は何も知らなかった。兄が警察で何をして何を追っていたのか。事故が故意に起きたものだなんて一ミリも思いもしなかった。だけど遺品を整理している中で兄が持ち歩いていた携帯の中のメモリーチップに日記が残っていたことに気付いたんです。そこには両親の死の真相と、『ブラックボックス』についての事が事細かに記されていました」
そこには最後にこう書かれていた。
自分はきっと奴らの手によって命を落とすことになるだろうと。
それでも悔いはないと。
ただ残された凪咲と婚約者のハナに謝りたい
すまない。
愛していると。
その内容を見て、黒瀬凪咲は決心したのだ。
兄を、両親を、殺した奴らを許さない。
必ずや復讐してみせると。
「兄は『ブラックボックス』を取り返す為、きっと犯罪組織の手が伸びてくると踏んでいた。だから偽のデータを作っていたんです。案の定、敵は兄が造った偽の『ブラックボックス』を盗んでいきました。でもいずれそれがばれる。その時、必ず敵は私を狙う。兄の唯一の家族だった私を」
その時にしか復習するチャンスはない。
だから待ったのだ。
奴らが気づくのを。
わざと狙われやすいように一人で行動し、盗聴器が仕掛けられていても知らぬふりをし、敵が『ブラックボックス』のありかを問い詰めに接触してくるのをずっと待った。
そしてようやく、昨日、敵の組織が動き出した。
何の因果か、両親の命日である、その日に。