そして俺は、君の笑顔に恋をする
...
日が昇り、空が白み始める。
寝室で目を覚ました真妃は、黒瀬がいないことに気付き大慌てでぼさぼさの髪のままリビングへ。
「どこどこ、凪咲ちゃ...!!」
「しーー」
そこには工藤の肩にもたれて眠る黒瀬の姿が。
「ヒロ...帰ってきてたのね」
「ああ。さっきな」
悪かったな、急に頼んで。
工藤がそう言うと真妃はいいのよと笑う。
乱れた金髪を手櫛で整え、足音を立てないように二人に近づいた。
「あらあら、凪咲ちゃんぐっすりね」
「…事件のあらましを話したらいつの間にか。珍しく敬語だったよ」
「きっと緊張してたのよ。狙撃されたんだから仕方ないわ」
安心しきった顔しちゃって。
可愛いわね、と黒瀬の頭を優しく撫でる。
「おい、せっかく寝てるんだから起こすなよ」
「何よー若い子にデレデレしちゃって」
「そんなんじゃない。ちゃかすならどっかいけ真妃」
「はぁい」
その前に
真妃はそう言うと工藤の顔に頬を寄せ、ちゅっと音を立ててキスをする。
「忙しいのは分かるけど、彼女をないがしろにしたらいくら私でも怒るわよ」
「…怒るのか?」
「甘いわね。女は怖いのよー」
「…ははっそれは言えてる」
見つめ合った二人はそれから静かに唇を合わせた。
◇
包丁がトントンとまな板を叩く音
香ばしいパンの香り
画に描いたような朝食風景を彷彿とさせるそれに、黒瀬はゆっくり閉じた瞼を開けた。
「…うぅーん…」
声を漏らして体を動かそうとすると、肩に何やら重みがかかっていることに気付く。
「ん? ッ…な……!!!」
そこでようやく自分の隣に工藤が座っていることを知り、黒瀬は目を大きく見開かせ声にならない叫び声をあげた。
心の底から驚く彼女とは裏腹に、工藤は黒瀬に寄りかかってすやすやと眠っている。
しばし驚きで固まっていたが徐々に慣れ、眠る工藤の顔をまじまじと観察し始めた。
口開けて寝るんだ、とか
あ、意外と睫毛長い、とか
肌ツヤツヤだな、とか
いいにおいがする、香水かな、とか
お兄ちゃんにちょっと似てるかも、とか
こんなに近くで見ることなんてないから、黒瀬はここぞとばかりに工藤の観察を続ける。
そうこうしているとエプロンを付けた真妃がやって来た。
「あら、凪咲ちゃん起きてたのね」
「あ、真妃さん」
「朝ごはん出来たよー食べれる?」
「は、はい…でも、工藤さんが…」
「ん?…あ~ヒロめ。凪咲ちゃん肩借りて寝るなんて!」
許すまじ。
そう言うと、エプロンで手をふきふきしながら、真妃はニヤリと笑う。
相変わらずキラキラとした美しさを放つ真妃。
世話焼きで人懐っこくて、それでいて優しくて美人。
そんな完璧超人のような人が、工藤の前に座り込むと、額の前で指を構えて…
ばちんっ!!
「っって!!?」
「ま、真妃さん!?」
「イエーイ」
超・強力なデコピンをかまして最高の笑みを浮かべるのだった。