そして俺は、君の笑顔に恋をする
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それから黒瀬と工藤の二人は車を走らせ、例の隠れ家とやらに向かった。
工藤がマンションを出るときコンシェルジュの衛宮さんに何やら言っていたのが気にはなったがそれ以外は特に何もなく、黒瀬はただただ無言で車に揺られている。
バックミラー越しに見える彼女の暗い表情に、どうしたもんかと悩みながらとりあえず工藤は車を走らせた。
着いた先は、先ほどのマンションとまではいかないものの、かなりの高さの高層マンション。
少し離れた場所に警視庁も見える。
地下駐車場で車を降りエントランスに入ると、黒瀬は目を丸くして立ち止まった。
「え、衛宮さん…!!?」
そこに居たのは前のマンションに居た、コンシェルジュ・衛宮そっくりのコンシェルジュだったのだ。
言葉をなくして驚く彼女に工藤は「衛宮・弟だよ。びっくりしたろ?」と笑う。
「お待ちしておりました。工藤様、黒瀬様」
「急ぎですいません。例の物用意できてますか?」
「はい。全て部屋に運び終えております。カードもこちらに。黒瀬様名義で作らせていただきました」
「そうですか。何から何までありがとうございます」
「いいえ」
衛宮・兄と同じように優しい笑みを浮かべ、深々とお辞儀する衛宮・弟。
それに呆気にとられながら、黒瀬は工藤に急かされ、エレベーターに乗り込んだ。
驚くほどの速さで上へ向かうエレベータ。到着したのはまたしても最上階だった。
工藤は扉のノブに手をかけた状態で一度黒瀬の方を振り向く。
「ちょっと身構えといて。驚くと思うから」
「へ、」
何のことか分からない黒瀬はキョトンとしていたが、扉を開けた瞬間、その意味が分かった。
がちゃ、と言う音がした瞬間
「ニ゛ャア゛アアーーーー!!」
「いってええーー!!?」
扉の隙間から飛び出した黒い影が奇声を上げて工藤の顔に突撃したのだ。
黒い影はネコ。
爪を立て顔にへばりつくネコはフーフー言わせてる。
「ニ゛ャア゛ー!」
「痛いよ!ごめん!離れてッ!」
「ニ゛ャニ゛ャニ゛ャーーア゛ーー!!」
「ぎゃーー!!顔がーー!!!」
目の前で繰り広げられるやたら騒がしい光景に、黒瀬は頬を引きつらせるのだった