そして俺は、君の笑顔に恋をする
テレビの画面を見ながら、工藤は再びスマホを耳に当て、通話の相手に答える。
「…おっさん。ニュース見た。捜査は任せる、その代わり情報はこっちに流してくれ」
『――いいのか?お前、現場に出たほうが…』
「いや、俺の仕事は彼女の護衛だから。特に今は、ここを離れるわけにはいかない」
『――そうか…』
そう言って断ろうとしたとき、スマホを手にした腕を黒瀬がギュッと掴んだ。
「く、黒瀬?」
「それ、相手佐久間おじさん?」
「あ、ああ。」
「ちょっと代わって」
黒瀬は工藤の手からスマホを取り上げると、話し始める。
「佐久間おじさん」
『――うおっ!凪ちゃんか…?』
「うん。私もニュース見た。工藤さんそっちに行かせるから」
『――えっ!?』
「はあっ!?勝手に…!!」
突然黒瀬が話を進め始め、工藤は驚く。
「工藤さん向かわせるから、捜査に参加させて」
『――凪ちゃん、で、でもなあ、君を守るのが最優先事項なんだ。…見ただろう、君は確実に命を狙われてるんだ』
「それは分かってる。分かってるけど…私もあいつらを捕まえたいの。お願い…!!」
電話の向こうの佐久間は、声からわかる彼女の真剣な想いに心を揺さぶられる。
命を狙われているのだ。
狙撃され、住んでた家を爆破された。
家族も殺された。
そんな事を平気でする連中に狙われて、いくら安全な場所に居るとはいえ、怖くないはずない。
それでも彼女はこのチャンスを逃したくないのだろう。
兄の誠一郎が死んで一年。
彼女はただひたすらそれだけを待ち望んでいたのだから。
『――分かった。工藤を捜査に加えるよ』
「…!ありがとう」
『――君はそこから一歩も出るなよ。それが条件だ』
「うん」
『――じゃあ、工藤に代わってくれ』
はい。
話が終わったのか、黒瀬がずいとスマホを押し出してくる。
話が見えない工藤はただただ困惑しながら受け取り、耳を当てた。
「どういうことだ、おっさん。黒瀬と何話した」
『――お前を捜査に参加させろってさ』
「だからそれは出来ないって…」
『――いや、お前も来い。一時間でもいい。向こうで培った捜査能力が必要だ』
「だが、彼女を守らないと…!」
『――分かってる。だが、後手に回ってばかりじゃダメだ。お前も知ってるだろう』
身に覚えが痛いほどある工藤はぐっと唇を噛みしめる。
『――犠牲は十分すぎるほど出た。彼女は家族を壊されたんだ。そして〈お前〉も…!』
来い。
お前の力が必要だ。
佐久間の言葉に、工藤は「分かった…」と頷いた。