そして俺は、君の笑顔に恋をする
「――はい、…はい。じゃあ、手配の方よろしくお願いします」
では、二時間後、現場で。
そう言うと工藤は電話を切ってため息を付いた。
そして、じろりと黒瀬の方を見る。
「…おい黒瀬。勝手な事言うなよ。俺の仕事はお前の警護で、捜査じゃない。離れているうちに狙われたらどうする」
「……分かってる」
黒瀬はそう言いながらも不満そうに目を逸らす。
「他にも優秀な刑事は居る。任せるは嫌なのか?」
「嫌なわけじゃない、けど…顔も名前も分からない人に任せるより、少しでも信頼できる人に任せたい」
「!!」
彼女の意外な返答に、工藤は目を丸くする。
「…へえ、俺って少しは信頼してもらえてんだ…」
嬉しそうにそう言うと、黒瀬は照れているのかムッと顔をしかめた。
「そう言う話をしてるんじゃないッ!」
「ははっまあそうだな」
「と、とにかく、手がかりがあるかもしれないの、兄さんを…家族を殺した犯人の手がかりが。そんな大事なものを、事情も知らない他人に任せて、見逃したりなんかしたらたまったもんじゃないの」
「…分かったよ。ちゃんとやってくるから。黒瀬はここでオリオンと待ってて」
...
それから数時間も立たぬうちに、工藤は出発した。
きちんと玄関の外に警護の人を配置したうえで。
出ていくとき、スーツを着た『刑事』の工藤は振り返って黒瀬の頭を優しく撫でた。
安心させるように大きな手でくしゃくしゃと。
「じゃあな、ちゃんと信頼にこたえる働きをしてくるから」
「!…うん、お願い、します」
元居た家を爆破されたのだ。
気丈に振る舞ってはいても、きっと心は不安に決まってる。
そんな不安を全てかっさらっていくような優しさや強さが、彼の手にはあるようで。
扉の先に消えていった工藤の背を見つめ、オリオンを抱きながら、工藤になでられた頭を自分の手で触れた。
なぜかこんなに切羽詰まった状況なのに、どこか心が温かくなった気がした。