そして俺は、君の笑顔に恋をする
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工藤はマンションを出て爆破現場に車を走らせる。
数十分も経たずして着いたそこはすでに消火作業が終わり、黒瀬の部屋があった部分だけが焼け跡て痛々しく残っていた。
物見遊山で集まった人の波をかき分け工藤は現場に乗り込む。
「お、来たな」
「エロジジ...雪村警視。遅くなってすいません」
「おま、エロジジイって言おうとしたな。ってかほぼ言っただろう」
「それより現場に。時間がないんで」
話してる暇も惜しいのか手袋をしながら答える工藤に雪村は「...へいへい。分かったよ」と肩をすぼめた。
黒瀬の部屋は丸焦げだった。
扉も窓も吹っ飛び、無残な有様に。
工藤はそのなかに入っていく。
他の刑事や鑑識はドアの外に待たせて。
消火の為に大量の水を浴びた焼け跡の中を、黒瀬は一歩一歩慎重に進む。
一度この部屋には入ったことがあるが気になるのは寝室だ。
他の部屋には目もくれずにそこへ向かう工藤を、他の刑事達は不審そうに見つめる。
「工藤警部、他の部屋は見なくていいのですか」
「...」
「く、工藤警部?」
「あーやめとけ、今やつに話しかけても無駄だ」
「こ、これは!雪村警視!」
「工藤は集中すると話を聞かん、話をせん、自分の世界に入っちまう」
「...そうなんでありますか...」
「まあしばらく待てばいい、あいつの捜査は数分で終る」
「??」
雪村が言った通り、数分すると工藤は部屋から出てきた。
「工藤、どうだ?」
「あいつらの仕業だ。事故じゃないな」
「…根拠は」
「見て分かるだろ、窓や扉は内側から大きく破壊されている。ガスの元栓が開いてるからガス爆発に見せかけようとしたんだろうが、その割に各部屋の被害状況に偏りが見られる。それにほら、これは一番被害の酷かった彼女の寝室で見つけたものだ」
そう言って工藤が雪村に差し出したのは、何やら丸焦げになった金属片。
「何だこりゃ…」
「おそらく、爆弾の起爆装置だ。似たようなものを何度か見たことがある」
「なるほどな。じゃあ何故、寝室を狙った」
「…あの子の寝室見たことあるか?寝室じゃなくてもいい。他の部屋でも」
「居間に一度上がったことがあるだけだ」
「その時何か気づかなかったか?彼女部屋の異様さに」
黒瀬の部屋は異様なほどに物がなかった。
生活用品も極最小限で、食べ物すらほとんど見当たらない。
その代わり彼女の寝室にはいくつか物があった。
高価なパソコンにいくつものディスプレイ、学校の教材、少し汚れたクマのぬいぐるみ、小さなハートの赤い箱。
きっと彼女にとって、唯一心を開放できる場所が寝室だったのだろう。
それ以外ではひと時も気の休まることのなかった。
同じ部屋を工藤は知っている。
黒瀬とオリオンを残してきた、工藤の隠れ家だ。
もう一つの方は真妃が一緒に住んでいるのでそうはいかないが、誰の侵入も許していないあの部屋は工藤の心の内を表している。
あの部屋も黒瀬の部屋と同じ、余計な物は一切なく、まるで生活感が感じられない。
唯一彼の人となりが少しばかり顔を出す物があるのは、たった一部屋のみ。
それと全く同じだと思ったのだ。
そして、もし、彼女が持つデータ、『ブラックボックス』をこの場所のどこかに隠しているとするならば、寝室としか考えられない。