そして俺は、君の笑顔に恋をする
「雪村警視、あの、その彼は…」
周りに居た刑事たちが、佐久間がいなくなったことでわらわらと寄ってきた。
一気に緊張感が抜けて、おそらく普段通りであろう雰囲気に戻っていることが分かる。
「ああ。紹介が遅れたね彼は工藤 尋匡。新しくここやって来た警部だよ」
「警部!?そ、そうでありましたか!失礼致しました!!」
「あー…別にそんな畏まらないでくれ。そういうの、苦手なんだ俺…」
「そ、そうでありますか…」
「うははっ!!相変わらずだな、お前!!」
困惑気味の刑事たちを置いて、雪村は笑う。
「ですが、その若さで警部という事は、キャリア組という事ですか?」
疑問に思ったのか、刑事の一人が尋ねてきた。
工藤は今二十八歳。警部としては若い方だ。
国家公務員試験をうけて警部補から警視庁に入庁できるキャリア組と考える方が妥当だろう。
「いや、彼は特殊でね。キャリアとは違う」
工藤と言う男は、十八で警察官になり、その類稀なる能力を買われて十九で警視庁警備部警護課の要人警護いわゆるSP(セキュリティーポリス)となった。
そして二十になるのを境に、FBIに引き抜かれ単身アメリカに渡り、つい最近までFBIの国家公安部の特別捜査官として働いていた。
「工藤 尋匡は、日本の警察とアメリカのFBIで認められた、天才で最高の捜査官なんだよ」
予想外の経歴にそこに居た警官たちは唖然とする。
「大げさっすよ、そんな大層な者じゃありません。経験も力も皆さんに及びませんから、これから宜しくお願いします」
工藤が深く頭を下げると、唖然としていた刑事たちは慌て始める。
「や、やめてください!!警部たる者、部下に頭を下げてはなりません!!」
「いやいやいいんだ!下げさせとけ、このひよっ子には!」
雪村は工藤の下げた頭をぼんぼん叩く。
それになあ
「工藤には単独の任務が与えられてるからな、君たちと仕事をするのはその任務が終った後だ」
「任務、ですか...」
「ああ。コイツの経歴が役に立つ特殊な任務だ」
だからな、
「しばらくこいつは俺が面倒を見るから、そういう事で!!頼むな!」
「は、はあ…」
雪村の勢いに押され、翻弄されまくるつくづく哀れな刑事たちなのだった。