そして俺は、君の笑顔に恋をする
「敵はこれまでにも何度か彼女の部屋に侵入し、盗聴器を仕掛けている。寝室も十分捜索しただろう。だが爆発を起こした。という事は、データを発見できなかったんだ。だから仮にデータがあったとしても、部屋もろとも壊してしまおうとした」
こんなところだろう。
工藤の分析は的確で、雪村はさすがと目を剥く。
他の警官たちも事件の裏を把握してはいないが、工藤の凄さだけは何となくだか感じた。
「これからどうする、工藤」
「敵の動きからして手がかりを残すような些細なへまは期待できないが、周囲の聞き込みと監視カメラのチェックは徹底してやったほうがいい。監視カメラの映像だけは分析が終った後俺の方にも回してくれたら助かる。少しは役に立てるだろう」
「よし、分かった」
お前たちは不審人物がいなかったか聞き込みに回れ!!
その雪村の一言で、他の刑事たちは動き出す。
残ったのは工藤と雪村の二人だけになった。
「…腕は鈍ってないな、工藤。相変わらずすごい観察眼だ。他の刑事たちが時間をかけてやっと考えつく事をお前はたった数分でやってしまう。昔と同じだ」
「昔より多少マシにはなったと思うが、そんなに成長がないですか?」
多くを知り経験したことで、余計な考えを素早く排除できるようになった。
工藤のIQは190以上。
見た目によらず頭が非常にいい。
十八で刑事になったが、高校も大学もそれまでにアメリカで卒業してしまっている。
そのままFBIに入らなかったのは諸事情があるせいで、頭が足らなかったからじゃない。
見たもののほとんどを瞬時に記憶することもできるし、思考も他人とは比べ物にならないくらい早く回る。
これが工藤が各機関で必要とされる理由。
「じゃあ俺は戻ります、監視カメラの映像は俺のメールにお願いします」
「分かった、黒瀬の事頼むなー!」
「りょーかい」
工藤はそのまま帰路に着く。
その後姿を見ながら、雪村は小さく呟く。
「…お前も頑張れよ、やっと手がかりが掴めたんだ。彼女を守り、親父さんの無念を晴らすぞ」
固く真剣な彼の声は、工藤の耳には届くことはなかった。