そして俺は、君の笑顔に恋をする
黒瀬が時計を見上げると昼の四時を回ったところだった。
(あ、もうこんな時間…)
工藤の方を見ると、彼は凄い集中力で繰り返し何度も映像を見ていて、やめる気配はない。
黒瀬は静かにその場を立ち上がり、キッチンに向かった。
「にゃー」
「しー…静かにね、オリオン。工藤さん仕事してるから」
「んにゃ」
オリオンを傍で降ろす。
少し遅いが、昼食にしようかと思ったのだ。
夕食に近い昼食を。
思い返せば今朝、黒瀬は食べたが工藤はコーヒーだけ。
前の日も工藤が何かを食べているのは見なかった。
真妃と一緒に居た時はたいして何も思わなかったが今なぜか目につく。
何も食べずに睡眠もとらない。
このままじゃ体の方が持たずに倒れてしまうのではないかと思うほどだ。
黒瀬は同じような人間を知っていた。
兄の誠一郎。
仕事一筋だった彼は、目の前のそれに必死になるあまり、食事も睡眠も忘れてよく体を壊していた。
こういう人間はきっと体のどこか、自己管理をする器官が壊れているに違いない。
だから自分の身体がイカレて来ているのにも気づかない。
今でこそ、兄がそれだけ仕事一筋に生きていた理由を知っているが、当時は何も知らなかった。
だから倒れるたびに責めた。
どうして心配ばかりかけるの、なぜ自分の体を大事にしないのかと。
私には兄さんだけしかいないのに。
そうやって責めるたび、兄は申し訳なさそうに謝った。
(ホントに、兄さんによく似てる…仕事バカな所もそっくり…)
かちゃかちゃと音を立てて簡単な炒め物を作る。
その間も工藤はパソコンの画面から目を離さなかった。
呆れるほどの集中力。
こちらが抱く憎しみや復讐心全てを吸い取って、自分が成り代わって動いているみたい。
だからこれまで憎しみを抱いて生きてきて命を狙われたというのに、こんなにも心が穏やかなのだ。
兄が死んでからの日々の中で一番。
本当に不思議な感覚。