そして俺は、君の笑顔に恋をする
食べ終わった頃、黒瀬は電話の事を聞こうか迷っていた。
事件に関わることなら聞きたい。
でも、そう簡単に刑事が事件の状況を話すことはできないだろう。
(どうしよう…)
黒瀬が悩んでいると、それを見透かしたように工藤が話し始めた。
「さっきの電話の事、気になるのか?」
「え、…あ、うん」
「実はな、あの映像の中に一人、気になる男が映ってたんだ」
その言葉に黒瀬は目を丸くする。
一通り見たが、黒瀬はそんな人気が付かなかった。
映像は荒く、とてもじゃないが人の顔なんて認識できるレベルじゃない。
ようやく背格好が分かるくらい。
「あんな映像で怪しいかなんてわかるの?」
「職業柄見慣れてるんだ。それにアメリカのやつはもう一つ画質が悪い。機械で何度も画質を上げてやっとこさ見れる程度になるが、それでも日本の物の方が驚くほど鮮明だ」
「へえ…それで?」
工藤はパソコンを持ってきて黒瀬の前に置き、映像を見せる。
「マンションから少し行った先にあるコンビニ、分かるか?その前をマンションのある方向から歩いてきたやつがいた。時間は爆発の数分後、黒のパーカーを着た男だ。大抵の悪党は犯罪者を手下として使うが、今回のような巨大な組織になると、安い犯罪歴のチンピラや素人を使う。足がつかないようにな」
「へえ…」
「だから、どこにでもいそうな少年を中心に映像で後を追った。人っていうのは街を歩いてりゃ平均五回どこかしらの防犯カメラに映るらしい。そして街中の映像を繋いで黒パーカーの少年を追ったところ、数キロ先の町の一角である男と会うところを見つけた」
「ある、男…」
「…ああ、俺の記憶にもある。胸糞悪い犯罪者だよ…よくもまあアメリカからわざわざ来やがって…」
急に眉間にしわを寄せる工藤。
彼の言う胸糞悪い犯罪者の話をしてからだ。
ともかく、黒パーカーの一般人は金をつかまされ、爆弾を仕掛けて起爆スイッチを押しただけ。
指示を出したのは工藤の知るその犯罪者という事。
「…とまあそんな感じの事を、エ…雪村さんや、佐久間のおっさんに電話で言ったんだ。すぐに広域指名手配されるだろうし、事件が起こった今日の今日で顔が割れ、高跳びも不可能だろう。しばらくはこの国にとどまるはずだ。次の動きを示す前に捕まえる。絶対だ」
そう言った工藤の目は据わっていて、やけに頼もしく
どこか怖いなと思った。
その日はそのまま眠った。
オリオンが懐に潜り込み、工藤もベットの傍にソファを寄せて一緒に居てくれた。
寝たふりなのには気づいたが、黒瀬は何も言わずそっと瞼を閉じたのだった。