そして俺は、君の笑顔に恋をする
その後もしばらく話して電話を切った工藤は、寝室に戻り再びソファに身を沈める。
一方で警視庁に居た佐久間は自分の執務室でうなだれていた。
「はあああ~~疲れるっ!!」
「工藤ですね……玉露いります?」
後から部屋に入ってきた雪村がその様子を見て頬を引きつらせながら玉露の入った湯呑を差し出した。
工藤は昔からこう。
行動も思考も人より何倍も優れているせいで、自分たちが酷く無力に感じる。
全てにおいてベテランの刑事たちの何倍も先を行く彼。
当時の上司だった雪村や佐久間を何度困惑させたことか。
嫌味にすら取れる彼の行動や言葉に時にムッとしたこともあったが、彼は非常にいい人間だったのだ。
無意識のうちに実力を露わにする以外、自分の力や経歴を誇示することは一切なかった。
いつも低姿勢で、礼儀や弁えもあり、人々には分け隔てなく接する。
正義感も人一倍強く、何より彼は優しかった。
誰よりも。
だから誰も彼の事を嫌いになんてなれなかった。
疎まれることも、毛嫌いされることも。
みんな工藤の事が大好きだった。
だから工藤がFBIへ行くとなったときは皆惜しんだものだ。
工藤との仕事は彼が先へ先へと正しい道を突き進んでいくため忙しさも疾走感も普段の倍になるが、疲れるの分達成感はあった。
いくつもの事件をスピード解決し、警察の犯人検挙率は例年の比にならないほど跳ね上がった。
その功績を見初められ、警察のトップが彼を警護課に送った。
今度は日本のお偉い官僚をお守りしろと。
そこでも工藤は文句を言うことなく、官僚や有名人の御機嫌取り兼護衛を完璧にやってのけた。
それから一年後、お次は国のトップが外交の為、彼をFBIに送った。
そうやって工藤と言う男は、海を渡り日本より遥かに広大な土地を守る捜査官になった。
「もう一緒に仕事することなんてねえと思ってたんだけどなあ…」
ズズズ…とお茶をすすり、昔の事を思い出して天井を見上げた。
「こうやって改めて一緒に捜査すると、あいつの凄さがひしひしと伝わって来て嫌になりますねえ…」
「ああ、だが流石だ…たった数時間で数十人の刑事が必死になって行う捜査をやってのける。その集中力と技量、判断力…大したもんだ」
「本当に…あいつの頭の中はどうなってるんだか、見てみたいですよ」
二人は疲れた様にそう言って、揃って玉露をすすったのだった。