そして俺は、君の笑顔に恋をする
画面に映る文字を見て、工藤は眉を顰める。
話を続ける黒瀬とハナを確認し、彼はキッチンの奥に入って電話に出た。
「…工藤です」
『――雪村だ。今いいか』
「いいですけど。今日二回目ですよ、必要最低限にしてくださいと言ってましたよね、それなりの要件じゃないと切ります」
『――…なんだ、珍しくイライラしてんな。いやいやそれより、緊急だ。工藤、お前今からこっちに来い』
「……は?何でですか、俺の仕事は…」
『――ああ、言いたいことは分かってる。だがこちらも引けん。
“お前”をご指名なんだ』
「!!」
...
電話を終えた工藤は、壁にもたれ掛って大きくため息を付いた。
通常より高く作られた天井を見上げ、片手で顔を覆う。
どうしてこうも警護に集中させてくれないのか、
(…くっそ……つってもどうにもならないか…)
珍しく眉間にしわを寄せ、機嫌を悪くする工藤
その様子を、工藤を探してキッチンに来ていた黒瀬が目にする。
「工藤、さん…? どうかしたの」
彼女の声ではっとした工藤は慌てて元に戻る。
「あっ、いや、何でもないよ。ごめん」
「…でも、今電話…」
「ああ、ちょっとな。今からまた警視庁に行かなきゃいけなくなった。悪いけど、またここにいてくれるか?ハナさんも一緒に。すぐ帰ってくるから」
「うん、それはいいけど…大丈夫?顔色が…」
顔色が悪い。
それを言いかける前に黒瀬の足にオリオンがすり寄り、びっくりした黒瀬は口ごもってしまった。
「お、オリオン…」
「んにゃあ」
小さな体を抱き上げ腕の中に収める黒瀬。
すっかり懐いた様子の二人を微笑みながら見つめる工藤は、黒瀬の横を通りながら彼女の頭を撫でる。
「心配してくれてありがとうな」
さあ、ハナさんのとこに行こう。
そう言ってリビングに戻っていく工藤の背中が、黒瀬の大好きだった兄に重なって
怖くなった
また、いなくなってしまいそうで
それを怖いと思えるほど、不安になってしまうほど、彼女にとって工藤はもう大切な存在になっていたのだった。