そして俺は、君の笑顔に恋をする





警視庁に向かった工藤にはざわざわとやたら騒がしい光景が待っていた。



こっちに来てから初めてだ。


こんなにここが走る刑事でごった返すのは。



都心の中心に匹敵する人口密度ではないかと思えるほどの人ごみの中を、工藤は目的地目指してもくもくと歩く。


ようやく到着した刑事部捜査一課では男勝りな厳つい刑事が忙しなく動き回っていた。




その中に雪村警視を見つけ、工藤は駆け寄る。




「雪村さん」


「おっ!早かったな工藤、急ですまん」


「それより何ですかこの騒ぎ、あちこちで爆弾だとか誘拐だとか言ってますが…俺が呼ばれたってことは『ブラックボックス』に関わる事件と認識しても?」


「…ああ、正確にはそう言えんが、俺や佐久間さんはそう考えている。やつら組織が関わってるとな」



こっちに来い


そう工藤は促され、ついて行った先でパソコンの画面を見せられた。


その画面に映し出されていたのは、白い背景の中心にカタカナがタイプされたもの


その内容は、




『バクダンヲシカケタ


 カギハ〈クドウヒロマサ〉

 ヒトジチは〈二ホン〉


 バクハツハ12ジ


 トメテホシクバ、姫ヲワタセ


 ワタシハ

 ハジマリヲコワシ、黒キ姫ヲテニスルモノ


 ワレノナハ―――…』




「…――Manticre“マンティコア”」



工藤がぽつりとその名を呟いた。


 


雪村は尋ねる。



「どうだ工藤、何か分かるか?俺達にはさっぱりでな、一体何処を捜索すればいいかもわからん上、意味深な言葉ばかりだ。なんだよマンティコアって。聞いたことねえ」



変な名前付けやがって、マンガやアニメの見過ぎだっつうの


そう言って不機嫌そうに眉間にしわを寄せた


確かに訳の分からない言葉ばかりだ



だが、工藤の頭は急速に回転し始める。




「“マンティコア”……ベルシア語か何かで「ヒト殺し」や「人間を食らう獣」っていう意味を持つ幻獣の名ですよ。同時に、アメリカの犯罪者の間ではあいつの通り名として使われてる」


「あいつ…九条力也って男か」


「ええ…わざとそれを使い俺の名を出したのは、黒瀬の件が関わっているってことを言いたいんだと思います。だとすればこの『黒き姫』は我々の言う『ブラックボックス』に値するはず。それに爆弾がどこにあるかは分からないがヒントはいくつかある」


「ヒント…?俺にはさっぱりだが…」


「まず、鍵が俺ということ。俺なら、場所も爆弾もどうにかできるという事でしょう。まあ、これが九条の仕業なら分からんこともない。二つ目に人質に対する表現方法。なぜ『二ホン』と書いたのか、ふつうそんな表現はしないはずです。三つ目、始まりを壊すという言葉。おそらくこれが爆弾の置かれた場所だと思います」




爆発の十二時まであと二時間。



「さっさと見つけてしまいましょう。心配事もいくつかありますし…」



工藤は首をぽきりと鳴らした。




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