そして俺は、君の笑顔に恋をする

爆発まで残り一時間。



(…よし、)



工藤は残りの配線をすべて処理し終えた。




爆弾処理の専門家たちもその驚くべき速さに唖然とする。



「凄い…」


「別に、すごかないです。すいません、何か電気流せるものないですか、スタンガンとかでもいいんですけど」


「ああ、スタンガンなら…でもそんなもの何に使うんですか」


「この爆弾、通常の火薬を使ったものと、電気機器を壊す特殊な電磁波を放射するものが組み合わせてあるんです。で、そちらの方は強力な電池を使用して動かしてるんで、それを外部から電気を与えてショートさせるんですよ」




「そんなもの、見たことが…」と落ち込んだように言う彼らを励ますように、手元では作業をしながら言葉をつづけた。




「見たことなくて当然です。これは俺が追いかけてきたやつのオリジナル品で、最新版なんで。それに今回はやたら大きくて複雑な構造にしるみたいですから…ん、よっと」


スタンガンを突っ込んで電気を流す。


パチッと大きな音を立てて火花が散り、それを合図にシューーン――とその巨大な爆弾は沈黙した。




「ふう…よし、これでいいでしょう。あとの処理はお願いします。今爆弾は止まってますけど、基幹部の解体まで配線には手を触れないでください、止まってるカウントが再開するんで。裏からやるといいですよ」


「あ、ああ。すまん」


「じゃあ俺はこれで」




爆弾を処理し終えた後も、眉間にしわを寄せたまま忙しなく帰ろうとする工藤に処理斑のリーダーであろう男が声をかける。



「待ちたまえ君!」


「…はい?すいませんけど、俺急いでるんで…」


「長く時間はとらせない。先程は失礼した。君の手並みを拝見した、素晴らしかった。後で言い、ぜひさっき君がやった技術を教えてほしいのだが」



その言葉を聞いた工藤は目を丸くする。


しかし、彼の真剣な瞳におされ、工藤は諦めた様に頷いた。



「分かりました。すぐにマスターできますよ。こっちの仕事が終わったら時間をとります。では」


「ああ。ありがたい」



そういって工藤はその場所を後にした。


雪村は彼の後を追う。


残った佐久間は、立ちすくむ彼の肩をポンと叩いた。



「そう落ち込むな」


「落ち込まない訳にはいきませんよ…私たちは日本最高峰の技術を持っているんです。何十年もこれをやってきて自分の腕には自信がありましたが…彼がいなければ今頃この警視庁は崩れ去っていました。それだけ大きく強力な爆弾だった。それに彼の言う通りなら爆発と同時に都内の電子機器が一斉に故障したでしょう。ここは東京です。もしそんなことがあれば日本そのものが壊れていたに違いない。自分の力のなさを実感しました」



その通り。


この情報化社会において、コンピューター等の電子機器が一斉に停止することは国の滅亡に等しいだろう。


ほとんどが機械によって成り立っているのだから


病院も、銀行も、会社も、


そして国の安全を管理する警察も


爆発が尚の事、警察は機能しなくなる



工藤は、たった一人でその危機を脱したのだ。


たんたんと、そんな一大事だったと感じさせることもなく。



「彼は一体何者です?なぜあんなに若くしてあれだけのことが出来るのです」


「ふん…そうだよなあ、私も最初はそう思ったさ。困惑し、嫉妬した。だが、あいつは人の何倍もの濃密な時間を幼い頃から過ごしている。常人ではおそらく奴の頭の中など一生理解できんだろう」



今度紹介してやる。きっとお前も気にいるぞ、いい男だからな




そう言葉を残して佐久間もその場を去る。


男は、去っていくその背を見、一度息を吐いて


「よし、後処理を開始する。慎重に、先ほど聞いた通りに行う様に!まだ気は抜くなよ!!」


と部下に向かって言った。


その顔は何かを吹っ切った様にすがすがしいものだった。



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