そして俺は、君の笑顔に恋をする
...
嫌な予感程、的中するものだ
今回もそうだった。
マンションに到着した工藤が、車を駐車スペースに止めることおっくうで、エントランス前に放置し中に入っていった。
それからすぐに衛宮・弟に詰め寄る。
「衛宮さんっ!何か変わったことありませんでした!?」
「? いいえ。こちらではなにも…どうかなされたんでしょうか?」
「……いや。何もないなら、いいんです…」
衛宮兄弟は工藤の信頼するコンシェルジュで、何か少しでも変わったことがあれば見逃すことなく連絡を入れてくれるはず。
特に最上階の出入りは工藤の許可なしに行わないようにしてる。
黒瀬が自分で出ていったりしないようにだ。
彼が何もないというのだから、本当に何もなかったのか?と若干安心はしたが、尚も不安はぬぐえない。
急いでエレベーターに乗り込み、最上階まで上がる。
そして扉の前に立つ警官を押しのけ、部屋の中に飛び込んだ。
「黒瀬っ!!」
そう叫んだ工藤の目の前には、オリオンを抱いた黒瀬が立っていた。
黒瀬は目をまん丸にし、大きな声を上げ焦った様子で駆けこんだ工藤に、飛びかかろうと待ち構えていたオリオンはピクリと身体を固まらせていた。
「く、工藤さん? どうしたの…??」
「はあ、はあ…黒瀬、何もなかったか?無事なのか?」
「うん。別に何も…大丈夫?ほんとにどうしたの…?」
何もなかったという事を聞き、工藤はほっと胸をなでおろす。
良かった、俺の思い過ごしだったかと
しかし、そうではなかった。
「あ、でも…ハナさんは帰っちゃった」
「……は??」
工藤は耳を疑った。
ハナにも自分が帰るまでここに残るように言っておいたはず。
それに衛宮さんにも黒瀬同様ハナの出入りを見ておくようにと言っておいた、だがそんな報告は入っていない。
「いつだ!どうして出ていった!!」
黒瀬の肩を掴み、怖い顔で工藤は問いただす。
状況を理解していない黒瀬はどうして工藤がこんなに詰め寄るのか分からずに不安な顔でその問いに戸惑いながら答えた。
「え、えと、確か…三十分ぐらい前。ハナさんのスマホに電話がかかって来て、それに出てからすぐに「急用ができたから」って出ていった」
それを聞くと、工藤は玄関の扉を開け、扉の外に立っていた警官の胸ぐらをつかんだ。
「おいっ!!お前はいつからここに立っていた!!!」
「えぇっわわ私は十五分ほど前からっここにおりました!!」
十五分前、というと十一時半ごろからか
大方十二時からの担当で引継ぎの為早めに来たのだろう
「その前ここに居た警官の名は!!引継ぎの際、互いの情報を交換をするように言ってあっただろう!!」
「え?…い、いませんでしたが…私はてっきり、私のシフトからとばかり…」
工藤の額を嫌な汗が流れる。
後に立っていた黒瀬は、工藤のただならぬ様子にごくりと喉を鳴らした。
その時、
ブブブ、と工藤の携帯がポケットの中で震えた。
「…工藤、です」
『――工藤、落ち着いて聞け』
電話の主は雪村だった。
彼の声は固く、鬼気迫る様子で
それだけで工藤は状況を察する
そして雪村が続けるであろう言葉を予想し、瞼を閉じる。
『――九重ハナさんが、誘拐された』
機械越しの声はわずかに震えていた。