そして俺は、君の笑顔に恋をする
...
誘拐の対策本部は工藤のいる部屋に設置された。
もう黒瀬の居場所もわれている今、この策は無意味に近いかも入れないが、少しでも他人との接触を避けるためである。
雪村や佐久間、その他信頼できる刑事たち数人だけで組まれた少数精鋭チームが機材を抱えて工藤の部屋へやって来た。
ちゃくちゃくと準備が整っていく中、黒瀬はオリオンを抱えたままソファの端で縮こまる。
自分が襲われるなら、別にいい。
そう考えていた黒瀬。
それなのに襲われたのは何も知らないハナだった。
その事実が思った以上に黒瀬の心を苦しめる。
自分のせいで、と悪い方向にばかり考えてしまう。
それでも、
雪村、佐久間らと共に、必死にハナを助け出そうと動いている工藤を見るたびに何度も自分に言い聞かせた。
『必ず救う』
工藤のその言葉を。
しばらくすると、警察が準備していた携帯に電話がかかってきた。
ハナを誘拐した犯人が連絡手段として警視庁宛に送られてきたものらしい。
工藤が雪村と視線を合わせ、お互いに小さく頷くとその携帯に手を伸ばした。
「…はい」
『――お、その声はクドウちゃん?』
スピーカーから出てきた声は、少し高めの男の声。
慣れ親しんだように工藤の事を呼ぶ。
『――やっぱりなぁ、クドウちゃんが出ると思ってたよ』
「久しぶりだな、エリック…いや、今は九条力也か。それともマンティコアと呼ぶべきか?」
相手はやはり九条力也、通称マンティコア
本名をエリック・ニコルハートという大犯罪者だった。
流暢に日本語を話せるのは父親が日本人だからである。
『――さっすが、クドウちゃん。よく分かってんねーオレの事。爆弾もあっけなく解体するしさぁ、アレ傑作だったんだけど。何時間かけて作ったと思ってんの?』
「ふざけるな、目的はただの時間稼ぎだったんだろ?あわよくば警視庁を木っ端微塵に出来ればぐらいの心積りだったはずだ。九重ハナさんをどこへやった」
『――ん〜フフ〜!ご名答!!やっぱクドウちゃん嫌いだわ。何でこのタイミングで日本に来るかなぁ、クドウちゃんさえ居なけりゃオレ一人でこの国潰せたかもしれねーのにさぁ』
「そう簡単に、物事は進まないということだ。もう一度聞く。九重ハナさんを何処へやった」
強い口調で畳み掛ける工藤。
その時、工藤の手から携帯が取りあげられた。