そして俺は、君の笑顔に恋をする
「ありがと」
「……工藤さん」
「ありがとな、フォローしてくれて。黒瀬が今一番、きついのに」
そう言って、黒瀬の頭をポンポンなでる。
「……ハナさん、大丈夫かな…」
不安そうな顔でそうこぼす黒瀬を気遣う様に、工藤は優しく言葉をかけた。
「…気休め程度にしか聞こえないと思うけど、たぶん彼女の無事は保証していいよ。昼間の電話で言ってたの聞いてたろ?向こうは、ハナさんがデータについて知らないことも黒瀬しかそのことについて知らないのも分かってた。つまり最初からハナさんは交渉の材料として使うつもりだったってことだ。だからあいつらはハナさんには手を出さない、少なくともあいつはそんなミス起こさないよ」
「…ホント?」
「ああ。でも、明日はハナさんだけじゃなく、黒瀬も間違いなく危険にさらされる」
「それは大丈夫。ハナさんが助かる為ならなんだってやる」
「…怖くないのか?」
「……怖いよ。でも、ハナさんが傷つく方が、ずっと怖いから…」
もう、周りの誰がか居なくなるのは、耐えられない。
だから
「私が今やれることは何だって…怖くたってやる」
決意に満ちた彼女の言葉に、工藤もまた決意を新たに胸に秘める。
「…絶対に守るから。黒瀬も、ハナさんも。俺が絶対に守ってみせる」
静かに、けれど力強い言葉
黒瀬は工藤を見上げる。
そして工藤も、同じように黒瀬を見つめていた。
少しの間、二人の視線は絡み合い、
どちらからともなく、その視線を外すのだった。
それからしばらく無言の時間が続いたが、工藤の肩にふと重みがかかり、そちらを向くと黒瀬が寄りかかって眠っていた。
(やっぱ疲れてたか…当たり前だよな…)
気丈に振る舞ってはいても、精神的にきているに決まってる。
ずっと緊張続きだったのだから。
黒瀬をそのまま自身のベットに寝かせ、毛布をそっと被せる。
乱れた前髪を起こさないように直しながら工藤は小さな声で呟いた。
「無防備だよ黒瀬……黒瀬、凪咲…」
前髪の隙間から覗いた綺麗なおでこに優しく触れて、工藤は部屋を出ていこうと立ち上がる。
ベットの隅で丸くなっていたオリオンがむくりと頭をもたげて工藤の背中を見つめる。
丸く綺麗な瞳
小さな頭
撫でてと言わんばかりにその頭を寄せてくる。
滅多に見れないオリオンのデレ部分に頬を緩ませ、工藤は額を撫でた。
「…お前も可愛いな、オリオン。お前は黒瀬の傍にいてやんな…彼女が寝てるときはお前がガードマンだ。俺には出さすがにできないからな」
「んにゃ…」
「おやすみ。なんかあれば、騒いででも呼べよ」
そう言って工藤は静かに扉を閉めた。