そして俺は、君の笑顔に恋をする
時計の針が揃って真上を向く。
それと同時に、工藤と黒瀬がいた場所の近くで携帯の着信音が鳴った。
「え、」
「…どこだ」
辺りを見回し音の出所を探る。
こもったようなその音は、噴水の水の中から聞こえてくる。
工藤が手を突っ込むとそこにはビニール袋に入った携帯が。
「……もしもし」
『――よっ、クドウちゃん時間通りだねー』
電話に出たのは案の定、九条力也、その男。
『――データは持ってきたのかよ、』
「ああ、お前はハナさんに手ぇ出してねえだろうな」
『――ああ無事無事。手なんか出してねえよ。オレ騒ぎ起こすのは好きだけど余計な殺生はしねえ主義だからな』
「警視庁襲ったやつの言い分じゃあねえよな、それ」
『――あっはは!そうだよなあ、あんたの言う通りだ!でさあ、話逸れるんだけど、ハナさんとやらを連れてそっちに向かってる奴がいるんだけどさあ、ちょーっと遅れてるみたいなんだよね、日本慣れてなくて』
「…おい、ふざけてんのか」
『――ふざけてねえよ。ホントに迷ってるだけなんだって!だからさあ、少しだけ雑談しようぜ、久しぶりに、な!な!あ、一応誘拐犯らしく九重ハナを返してほしけりゃって言っとくか』
こうして、半ば強制的に工藤と力也は話し始めることに。
『――そう言えば、これで何戦目だっけ?クドウちゃんとやんの。全部で六戦?オレの4戦2敗だっけ』
「違う、俺の4戦1敗1引き分けだ」
『――あっはっは!!よく覚えてるこった。まあ前回は確かに引き分けだね。あんたに捕まったけど、脱獄したからな。どうやったか分かるか?』
「…いや、だが、大方の想像は出来ている。外部の手助けだろうが、あの時のお前に脱獄の手を貸すような仲間はいなかったはずだ。だとすれば、お前は脱獄したのではなく“させられた”と言う表現が正しい。お前の力が借りたい、新たな雇い主の手によって」
『――…そうさ。流石クドウちゃん、その辺の警官とは違うね。言う通りだよ、今のボスがオレを脱獄させた。そして仕事を頼んだのさ、データの奪還をね。頼まれたのはそれだけ』
「…それを俺に言ってどうする」
『――言ったろ?雑談さ。もう一つ謎解きをしよう。九重ハナの誘拐はどうやったか分かったかな
』
「難しいな…これと言った証拠がないから照明はできない。ただこれも想像は出来る。調べたが監視カメラ等に細工された形跡はなかった、おそらくハナとの接触はこのマンションに来る前だ、黒瀬本人に手を出さない代わり、彼女が隠れている居場所へ出向き、誘拐されたように装うよう脅した」
『――ん~、脅したってのは納得いかないけど、まあそんなとこ。じゃあどうやってマンションから消えた?コンシェルジュの衛宮も出ていくその女を見てないんだろ』
「…それは完全に俺のミスだ。ハナさんがうちのマンションへ来たとき、衛宮さんは警察から送られていた写真で顔を確認しカギを渡して部屋へ通した、警備の警官も同様にね。だがその写真自体が違ったんだ。本来ハナさんであるべきところにはお前らが雇った別人を、警官であるべきところにハナさんの写真を。だから九重ハナは警官として俺の部屋に向かう。当然、その時の警備警官はいないから彼女の出入りを見張る者はいなくなり、彼女は警備の交代という名目で堂々と正面から出ていける。そんなところだろう」
『――やっぱすごいわ、クドウちゃん。脱帽。コンシェルジュに送った写真が変わってたことに気付かなかった明らかな警察のミスを自分のミスって言いきるところも漢の中の漢って感じ!』
これだからクドウちゃんとの仕事は嫌いになれないんだよね
そう言って電話越しに、力也は笑った。