そして俺は、君の笑顔に恋をする

三つ目


黒瀬凪咲は猫が好きだ。





常に一人で行動する黒瀬凪咲の生活はあまりに単調でつまらない。


毎日が一定のリズムで動いているかのように、何事にもとらわれずに彼女は日々を過ごしている。


ただ、少しだけそのリズムが狂う時がある。


それは学校の行き帰り


一人で通りを歩いていた彼女の元に、一匹の猫が現れた。


すると彼女はふと立ち止まり、じっと猫を見つめ、一声



「…にゃー」



と猫に向かって言ったのだ。


工藤は耳を疑った。


確認しておくが、猫がそう言ったのではない。


あの黒瀬凪咲が、言ったのだ。


にゃー、と。


(なんだ、それ……)


思いがけず、黒瀬凪咲の可愛らしい一面を目にした工藤は、呆気にとられたのだった。





四つ目


黒瀬凪咲は犬が嫌いだ。




学校からの行き帰り、当然のごとく散歩させている犬に出くわす訳で。


猫よりも犬派な工藤は、横を通り過ぎる小さなワンコをほのぼのとした表情で見つめていたのだが、彼女と言えば


すごい形相で、過ぎ去っていくワンコを睨み付けているではないか。


一体犬と彼女の間に何があったのかと尋ねたくなるほどに、彼女はワンコを睨み付ける。


結局、理由は何だったのだろうか、分からずじまいだった。






五つ目。


黒瀬凪咲にはもう一つ、大嫌いなものがある。


警察だ。




犬と同様、どうしてかは分からない。


ただ、警察組織と言うよりは警察官そのものを心底嫌って軽蔑しているように感じた。


工藤も約一か月警護をしているが目が合うたびにひどく蔑んだ目で見つめてくる。


話をしたこともなければ、近寄ってくるなと言わんばかりに警戒心をむき出しにしている。


他の警察官に関してもそうだ。


警視庁の警官、交番に居る警官にまでも敵意のまなざしを向ける彼女。




それなのに、黒瀬凪咲は警官のまねごとをするのだから訳が分からない。


警護をし始めてからこれまで約一か月彼女を見てきたが、痴漢、暴行、恐喝などの現場を目撃しては躊躇いなく現場に乗り込む。


そして持てる力を使って難なく犯人を捕まえるのだ。


この一か月で五人の逮捕。


驚異的な数値である。


警察よりも警察官らしい働きをするのに、何故こんなにも警察を嫌うのか。



黒瀬凪咲の謎は深まるばかりだ。



< 7 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop