すべてが思い出になる前に
リビングに戻った照史は、笑いながら翼と話す涼太を見て何かを思った。
今、どこで、何をしているか分からない友理奈の事を忘れようとしているのか。
何を思っているかは知らないが、ひたすら胸の中にしまい込んでいるのではないか。
そんな事を思いながらも、聞こうにも聞けない状態だった。
「何つったってるんだよ、こっち来いよ!」
「あぁ」
翼が笑顔で照史に手招きをした。缶ビールを片手に涼太は立ち上がりベランダへ出て行った。
ベランダのフェンスに肘つき、夕陽を眺める涼太は深く溜息をついた。
誰も友理奈の話をしようとはしない。
もう二度と会えない気がしてならない照史と翼は、ベランダにいる涼太の背中を見てそう思った。