すべてが思い出になる前に
歩くエスカレーターに乗ってよそ見をしているその時だった。
「10:27発、広島行きの松田様いらっしゃいますか?」
フロア内を早歩きしながら大きな声で叫ぶグランドスタッフの女性と涼太の目が不意に合った。
スタッフの女性は叫ぶのをやめて、じっと通り過ぎていく涼太を見てビックリした表情を見せた。
掛けっぱなしにしていた電話がいきなり繋がり、耳元で鴨川が声を掛けていた。
「今どこにいるんだ?宮﨑、おい宮﨑‼︎」
「あぁ、今21番ら辺にいる」
涼太はブチっと電話を切り、エスカレーターを降りてスタッフの女性の元へ駆け寄った。