すべてが思い出になる前に
力強く握り返された腕がまだ熱くて感覚が残っていて、反対の手で摩る。
隣に座っていた大きな背中、黙っていても場が成立する安心感。
私のことなんてこれっぽっちも恋愛対象として見てないのに、私ばかり涼太への淡い気持ちが募っていく。
その頃、みんなを自宅まで送り届けた後、帰宅途中の照史と妻の香織は車内で話をしていた。
「ねぇ、涼太くんと友理奈って付き合ってるの?」
「付き合ってないよ。所謂、友人以上恋人未満ってやつ。長年一緒にいると"幼馴染"という壁を越えられないんだよ」
「ふぅーん、それってどちらかが引き金を引いたらあっさり消えちゃうって本で読んだことある‼︎」
「そんな本があるのか…」
照史と香織も2人の行方を薄々と気にしていた。