すべてが思い出になる前に
「どうしたの、これ?」
「最近またテニス始めようかなっていう話を聞いたから、涼太に似合いそうって思って選んでみたの…」
友理奈は言葉を選びながら自信なさげに言った。
涼太はテニスシューズが入っている箱をパタッと閉め、友理奈の目を見て言った。
「ありがとう」
その一言を聞いた途端、友理奈は視線を落とした。
やっぱり、テニスシューズをプレゼントしたのはマズかったかな。一度諦めたものを自分が押し付けてしまう形になってしまった。
そんなつもりはないのに、只々後悔だけが残る。
とても悔しくて少しでも気持ちを分かって欲しかった友理奈は、落としていた視線を上げて涼太のじっと見つめ、つい本音を漏らした。
「涼太は何も分かってないよ、何も分かってない」
友理奈はリビングに戻り荷物を持って、玄関へ向かった。