すべてが思い出になる前に





友理奈の方へ歩み寄る涼太は、目の前で中腰になり、フェンス越しから話しかけた。



「中で見ればよかったのに。ずっと立ちっぱなしでキツかっただろ?」


「ううん、大丈夫。とてもいい試合だった。涼太は久々とはいえアメリカ帰りの翼に引けを取らない攻撃的なプレーで何度鳥肌がとったことか…」



テニスコートを出た涼太は、手洗い場へ向かい水道の蛇口を捻ると肩にかけていたタオルを濡らして、顔や身体を拭き始めた。


Tシャツの裾から手を入れて拭いている時に、チラッと腹筋が見え、ふと友理奈はこの日の為に仕上げて来たんだなと悟った。



「相変わらず手を抜かないのね」


「本気でやらないと相手に失礼だろ?何をするにしてもいつも全力だから」



クスッと笑った友理奈をじっと見ていた涼太は首を傾げた。








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