すべてが思い出になる前に
鴨川の詳しい説明を冷静に聞いていた涼太は、目の前にあるご飯茶碗を片手に口一杯頬張った。
「卒業論文で博士号を取得して、やっと研究者としてのスタートラインに立ったと認められる、世界共通でな。もしかしたら、大手の製薬会社で働けるチャンスが…あればいいけど」
「えっ、一旦躊躇ったのは何だよ⁉︎」
「可能性は僅かにあるけど、それはもう奇跡に近いし、ないと思ってたほうがいい」
「そうかもな」
鴨川の意見に頷き、味噌汁に手をつけたものの、思わずはぁと溜息をついた。
研究とは決して楽ではないし、またそれに相応する収入でもない。それでも地道な努力を続けて、最後まで諦めなければ思いを実現できる。
自分の進路にこれ程悩んだのは2回目だ。