すべてが思い出になる前に





研修期間が終わり、本格的に働き出したのはようやく梅雨が明けた7月半ば。



研究室にこもり、何枚ものプレパラートを顕微鏡にセットして一枚一枚確認しながら慎重に作業をしていた。



昼休みになり、同期数人と食堂でランチを食べている時だった。


スーツを着た男性が涼太の目の前で立ち止まった。



「宮﨑さんですか?」



食べていた涼太は顔を上げ、「はい」と返事をしてすぐさま席を立ち上がった。



「社長がお呼びですので、15:00に会議室へ…」


「はい、分かりました」



スーツを着た男性は口頭で伝えた後、立ち去って行った。


涼太は返事をしたものの、何故自分が社長に呼ばれたのか分からぬまま席に座った。


その場で理由を聞くべきだったが、聞けるような雰囲気ではないことだけは分かった。








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