すべてが思い出になる前に




桜が咲き始めた3月、卒業式を迎えた。


式が終わり卒業証書が入ったワニ柄の筒を右手に握った涼太は、友人達と一緒に校門まで出て来た。



「おい涼太、ちょっと来い‼︎」



名前を呼ばれて駆け寄る涼太を隣で見ていた翼が、思わず小声で言った。



「涼太の親父だ‼︎」



涼太より背は少し低いが、やはり長身でガタイが良く、強面な感じがやけに目立つ。


翼のそばには他にもクラスメイトが数人いて、皆不思議そうに見ていた。



「あの人、どこかで見たことあるよ」


「何かのドラマじゃない?」


「知らねーのか?涼太の親父は俳優だよ」



隣で聞いていた翼は、鼻高々に説明した。





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