リナリア
夏の風に向日葵
* * *
夏休みなんてなかったのだと、手帳を見て振り返る。今日は8月25日。夏期講習で何度か学校にも行っているし、撮影でスケジュールがそこそこ埋まっていたこともあって、今年の夏はあっという間だった。
今日の名桜の仕事は休みだった。各駅停車の電車に揺られ、目的地を目指す。
「…お母さん、ごめんね。今年はお父さんはお留守番。」
毎年欠かさず父と訪れる場所に、今年は父と一緒に向かうことはできなかった。父には外せない仕事ができてしまい、休みにできなかった。今日は知春がスタジオに来るはずだ。
強い日差しの中、涼しい車内で窓辺に肘をついた。ぼんやりと遠くを眺める。
* * *
「あれ、今日は名桜、休みなんですか?」
「うん。今日は名桜だけお出かけ。」
「お出かけ?どこ行ってるんです?」
「千葉の、ちょっと思い出の場所にね。」
「仕事ではなく、ですか?」
「うん。今日はお墓参りなんだよね。名桜の母親の。」
「えっ…麻倉さんは行かなくていいんですか?」
「撮影の予定がたくさん入っちゃってね。今日がいいっていう依頼が多くてさ。」
「…僕だけなら今度でいいですって言うところなんですけど。」
「なーに言ってんの。知春くんはもうそう簡単にスケジュール押さえられる子じゃないんだから、スケジュールの安売りしちゃだめだよ。」
「それはそうかもしれないですけど、でも、名桜一人で大丈夫なんですか?」
「大丈夫だと思うよ。墓参りをして、景色でも撮影して帰ってくる。」
「……。」
知春は何も言えなくなった。麻倉の妻が亡くなっていることは知っていたが、深く調べたり、知ったりする機会はなかった。
「心配してくれてありがとう。さて、僕たちも仕事、頑張ろうか。」
「はい。よろしくお願いします。」
知春は手帳を確認した。今日は珍しく、午前中の撮影だけで終わりだ。
「麻倉さん、ちょっと水分補給してからでもいいですか?」
「うん。準備できたら声掛けてね。」
「はい。」
知春はスマートフォンを取り出した。
『今どこにいるの?撮影終わったら行きたいから場所教えて。』
夏休みなんてなかったのだと、手帳を見て振り返る。今日は8月25日。夏期講習で何度か学校にも行っているし、撮影でスケジュールがそこそこ埋まっていたこともあって、今年の夏はあっという間だった。
今日の名桜の仕事は休みだった。各駅停車の電車に揺られ、目的地を目指す。
「…お母さん、ごめんね。今年はお父さんはお留守番。」
毎年欠かさず父と訪れる場所に、今年は父と一緒に向かうことはできなかった。父には外せない仕事ができてしまい、休みにできなかった。今日は知春がスタジオに来るはずだ。
強い日差しの中、涼しい車内で窓辺に肘をついた。ぼんやりと遠くを眺める。
* * *
「あれ、今日は名桜、休みなんですか?」
「うん。今日は名桜だけお出かけ。」
「お出かけ?どこ行ってるんです?」
「千葉の、ちょっと思い出の場所にね。」
「仕事ではなく、ですか?」
「うん。今日はお墓参りなんだよね。名桜の母親の。」
「えっ…麻倉さんは行かなくていいんですか?」
「撮影の予定がたくさん入っちゃってね。今日がいいっていう依頼が多くてさ。」
「…僕だけなら今度でいいですって言うところなんですけど。」
「なーに言ってんの。知春くんはもうそう簡単にスケジュール押さえられる子じゃないんだから、スケジュールの安売りしちゃだめだよ。」
「それはそうかもしれないですけど、でも、名桜一人で大丈夫なんですか?」
「大丈夫だと思うよ。墓参りをして、景色でも撮影して帰ってくる。」
「……。」
知春は何も言えなくなった。麻倉の妻が亡くなっていることは知っていたが、深く調べたり、知ったりする機会はなかった。
「心配してくれてありがとう。さて、僕たちも仕事、頑張ろうか。」
「はい。よろしくお願いします。」
知春は手帳を確認した。今日は珍しく、午前中の撮影だけで終わりだ。
「麻倉さん、ちょっと水分補給してからでもいいですか?」
「うん。準備できたら声掛けてね。」
「はい。」
知春はスマートフォンを取り出した。
『今どこにいるの?撮影終わったら行きたいから場所教えて。』