リナリア
* * *

 震えたスマートフォンに表示された知春からのメッセージに驚いた。

(撮影終わったらって…夕方とかに終わる撮影ならこっちに来るの夜になるのでは…?)

 そう思ったが、一応返事はしておく。墓参り後は少しフラフラしてから帰るつもりだった。行こうと考えているところを打ち込み、送信する。

「…一体何考えているんだか…。」

 夏休みの間に何度か撮影で顔を合わせることはあったが、特にこれといっていつものように話す時間はなかった。前までも忙しそうではあったが、主演映画が決まったことで、より一層忙しくなったようだ。
 目的地に着き、いつもの花屋で事前に予約をしていた花を受け取り、目的地に向かう。東京から快速を使わずに電車で2時間。この場所は母の実家があったところだ。残念なことに、母の両親、つまりは自分の祖父母はもういない。
 夏の匂いだ。空から降り注ぐ日の光が強くて、思わず目を細めた。虫の鳴き声も、真っ青な空も、名桜にこの場所の夏の思い出を蘇らせてくれる。
 小学4年まで、この場所で生活していた。小4の冬に祖母が亡くなり、東京で働く父の元へと引っ越した。この場所に降り立つと、切ないような、寂しいような、懐かしいような…なんとも言えない気持ちになる。

「…お母さん、久しぶりだね。なかなか来れなくてごめんね。おじいちゃん、おばあちゃんも久しぶり。」

 線香に火を灯し、そっと手であおいでその火を消す。線香の香りも嫌いじゃない。

「ただいま。私は元気です。」

 現状報告をすることにしている。今までは2月に1度は来れていたのに、高2になってからここに来たのは初めてだった。色々な意味で本当に久しぶりだ。
 母の命日である今日、いつもならば隣に父がいる。しかし、今日の父は来られない。おそらく、自分よりもこの場所に来たかったのは父なのに。
 だからこそ今日は、父と母の思い出を巡る旅にしようと思ってここに来た。

「お父さんを連れてこれなくてごめんね。でもその代わりに、二人の思い出の場所を写真に収めてくるから。」
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